男性の体臭は、その脇の下の匂いだけで、ネズミにとって、またおそらくは多くの哺乳類にとってストレスになる可能性があることが、最新の研究で明らかになった。
男性の存在によってストレスが誘発されるという発見は、人間でも当てはまる可能性のある大きな発見だ。これは、マウスやラットが男性の匂いを嗅ぐと不安 定になって痛みの感覚が麻痺することが観察されたことが元になっている。痛みが抑制される現象は、動物が危険に直面したときに見られる既知の反応だ。
4月28日に「Nature Methods」誌で発表された論文によると、男性の体臭は「強い生理的ストレス反応を誘発し、ストレス誘導性無痛覚(痛みの緩和)を引き起こす」のだという。
実験動物のネズミに見られたこの効果は、男性研究者や彼らが一晩身に付けたTシャツの存在によって生じ、30~45分間にわたって持続したという。この 結果を報告したのは、カナダのモントリオールにあるマギル大学疼痛遺伝学研究室のリーダー、ジェフリー・モギル(Jeffrey Mogil)氏が主導するチームだ。
モギル氏によると、この現象は汗の中に放出された男性関連フェロモンの混合物によって誘発されるもので、マウスやラットに限定されるものではなさそうだという。「ゆくゆくは、全哺乳類で同じことが起きていることが明らかにされるだろう」。
女性研究者や彼女たちが一晩身に付けたTシャツでも同様の効果がないか検証したが、ストレス誘導性無痛覚や類似のストレス効果は見られなかった。実のところ、女性のTシャツの匂いには、男性の匂いの効果を打ち消す鎮静効果があるとみられる。
◆恐怖の要因
恐怖を感じている動物、例えばハンターに狙われていることに気付いたシカなどは、一時的に痛みの感覚を抑制し、全エネルギーを逃避に注ぐことができる。この現象が、ストレス誘導性無痛覚として知られているものだ。
モギル氏と共同研究者たちがマウスでこの検証を実施したのは、ある実験で痛みの症状を示さないマウスがいることに気づいたためだ。
男性や男性が着たTシャツが存在するとき、マウスは痛みを麻痺させる無痛覚、ストレスホルモンの増加、体温の上昇、脱糞など恐怖の兆候を示した。
この研究では、男性の脇の下の汗中に放出され、ネズミたちのストレスを引き起こす3種類のフェロモンあるいは“化学シグナル”が特定された。「実際に嗅覚刺激となっているのは、化学物質の内どれか1つではなく、複雑な混合物だろうと考えている」とモギル氏は述べている。
動物が男性の匂いに恐怖を感じる理由は、いくつかの種では生まれつき「単独でいるオスの匂いに反応して不安を感じる」性質が備わっているためかもしれないとモギル氏は語る。
「単独でいるオスというのは、良からぬことを企んでいるものでしょう? 獲物を狩ろうとしていたり、縄張りを守ろうとしていたり」。
「もちろん危険がない場合、攻撃されることがない場合は、ストレスに慣れてしまう」とモギル氏は続ける。「これは非常に強い効果だが、あまり長くは持続しない」。
◆説得力のある主張
イギリス、ニューカッスル大学神経科学研究所の主任獣医ポール・フレックネル(Paul Flecknell)氏は、今回の研究は実験室内でネズミにかかるオスのストレス要因について、説得力のある主張をしていると述べている。
「多くの人が直感的に何かが起こっていると感じていたが、このような大規模かつ綿密な研究で、これが実際に存在する効果だと示した人はこれまでいなかった」とフレックネル氏。
「本当に興味深いのは、この効果が当てはまるのは実際には痛みだけにとどまらないだろうということだ。オスの存在によって覚醒レベルが変化すると、あらゆる種類の反応も変化しうる」。
この新発見から波及する研究は、動物実験室の枠に収まらないだろう。例えば、ペットの反応が男性獣医師と女性獣医師で異なることも考えられる。
ヒト間での相互作用については、男性の体臭が人々に与える効果は、もしあっても「弱く、短くなるだろう」とモギル氏は考えている。
James Owen for National Geographic News
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