爆発的な感染力「ノロウイルス」の予防法は?

コワいのはその爆発的な感染力!


ノロウイルスの季節がやってきた。嘔吐・下痢をする感染性胃腸炎への感染者が東京都、埼玉県、千葉県、大阪府などの都市部で増加し始め、流行の兆し を見せている。例年11月ごろから翌年2月くらいまでの寒い時期に大流行する感染性胃腸炎には、ロタウイルスなど他のウイルスによるものもあるが、爆発的 な集団感染を引き起こす原因は何といってもノロウイルスだ。

症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛で、発熱を伴う場合もある。ひどいときには嘔吐と下痢を繰り返して昼夜問わずトイレに駆け込み、日ごろは健康な大人 でも体力を消耗してゲッソリしてしまう。通常は数日で回復し後遺症はないものの、乳幼児や体力が落ちている高齢者の中には吐いた物を詰まらせて窒息死した り誤嚥性肺炎を引き起こしたりするようなケースもあるので侮れない。昨年もノロウイルスに感染後、心不全や肺炎などで死亡した高齢者が相次いだ。

ノロウイルスは1968年にアメリカのオハイオ州ノーウォークの小学校で急性胃腸炎に集団感染した患者たちの便から初めて確認された。その後はノー ウォークウイルス、ノーウォーク様ウイルスと呼ばれたが、2002年に国際ウイルス学会で属名として「ノロウイルス」と命名された。正式にはノロウイルス 属ノーウォークウイルス種というそうだ。

感染経路としてよく知られているのが、ノロウイルスに汚染されたカキ、ハマグリ、ムールなどの二枚貝からの経口感染で、いわゆる食中毒だが原因食品 が特定されない場合も多い。集団感染になるのは人から人への感染で、ノロウイルス患者や症状が出ない不顕性感染者との直接、間接の接触感染、嘔吐物や便を 介した飛沫感染がある。

何といっても怖いのは、その感染力の強さだ。

今年1月には、静岡県内の小学校19校で1271人が感染性胃腸炎を発症する集団感染が発生している。その原因は学校給食の食パンの検品時にノロウ イルスが付着していたためで、食パン製造所の従業員23人中4人の便からノロウイルスが検出されたという。従業員らは体調不良を訴えておらず、症状が出な い不顕性感染か感染後に回復してからウイルスを排出していたと考えられる。

ノロウイルスの病原性はそれほど強くはないものの、ごく微量のウイルスが口に入っただけで感染するわけだ。手洗いが不十分だったのではないかとの指 摘もあったが、まさかそんな勢いでノロウイルスが広がるとは思いもしなかったに違いない。昨シーズンは、その後も各地の保育園、小学校、中学校、高齢者施 設での集団ノロウイルス感染が発生した。

また、2006年大流行の際には、都内のホテルで、カーペットの上に客が吐いた物の処理が適切でなかったために、掃除や人が歩いたりするたびに微量 のウイルスが舞い上がり、それを吸引したことによる集団感染が発生した。時間がたっても、患者の吐しゃ物や便によって汚染された床や衣服、手袋などにはウ イルスが残っている恐れがあるということだ。ホテルでの事例を機に、ノロウイルス流行時の吐しゃ物などの処理が見直されたので、公共の場で同じようなこと はそうそう起こらないと思いたいが、改めてノロウイルスの感染力の強さに驚くばかりだ。


最大の予防法は「手洗いの励行」

では、このノロウイルス、ワクチンなどによる予防はできるのだろうか。

残念ながらワクチンは開発中で、現時点での最大の予防策は「手洗いの励行」と二枚貝を食べるときには85~90℃で中心部まで90秒以上加熱調理す るしかない。外出先から帰ったときとトイレの後、食事の前は石けんをよく泡立て、指の間や手首まで洗いよく水で流そう。手洗いは同時期に流行するインフル エンザの予防としても有効なのは言うまでもない。

生カキのおいしい季節だが、ノロウイルスが付着しているかどうかは鮮度とは無関係。できるだけノロウイルスによる感染性胃腸炎を避けたい3歳未満の 乳幼児、病気がちの高齢者、受験生のいる家庭では、生の二枚貝を食べるのは避けた方が無難かもしれない。二枚貝を調理したまな板で切った生野菜から感染し た例もあるので気をつけよう。

誰か1人がかかると家族全員が発症することはよくあることだが、感染を広げないためには、感染者とのタオルの共用を避け、吐しゃ物、下痢便、おむつ などを適切に処理するのも重要だ。床に吐しゃ物が飛び散ったときには、使い捨てのエプロン、手袋、マスクを着用し、汚物をペーパータオルで拭き取る。その 後、次亜塩素酸ナトリウムの漂白剤(家庭用塩素系漂白剤)で床を浸すように拭き取ってから水拭きし、処理に使用したエプロン、手袋などはビニールに入れて 口を閉じて処分する。

吐しゃ物や便が付着した衣類、シーツ、タオル、敷物などは、85℃の湯で1分以上煮沸消毒するか家庭用塩素系漂白剤(0.02%消毒水)に30分間 浸した後、他の衣類とは別に洗濯するとよいそうだ。消毒水を作るときには、ペットボトルのキャップに塩素系漂白剤を軽く2杯に対し、2リットル程度の水で 希釈するのが目安。念入りに感染を予防したいなら、トイレの便座やドアノブなども消毒薬を浸したタオルで拭き、水拭きするとよいとか。アルコール消毒液や 酸素系漂白剤、一般的な合成洗剤、石けんではノロウイルスは死滅しないので要注意だ。

感染性胃腸炎になった場合は、インフルエンザのような抗ウイルス薬はなく、何度も吐き続けるようなら吐き気止め薬を使ったり、高熱なら解熱鎮痛剤を 服用したりといった対症療法が中心になる。ただ、下痢止め薬は、ウイルスの体外への排出を妨げ回復を遅らせるため飲まないほうがよいとされる。一般的には 症状がひどいのは1~2日でその後は食欲も回復するので、大騒ぎする必要はないことがほとんどだが、嘔吐と下痢が続いているときには、脱水にならないよう に注意しよう。乳幼児や高齢者がかかったとき、それ以外の年齢の人でも水分がとれないときには医療機関を受診したほうがよいだろう。

なお、症状がなくなっても、一般的には3週間程度、排便によってノロウイルスが排出される。健康な成人でも1カ月以上、先天性の病気の子供では6カ 月以上、便からノロウイルスが排出されたとの報告もある。家族の食事を作る主婦(主夫)や食品を扱う仕事をしている人が感染性胃腸炎になった後、感染後の 乳児のおむつを触るときには、いつもより念入りに手を洗うようにし、感染を広げないよう気をつけたほうがよさそうだ。医療ジャーナリスト 福島安紀=文


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