■Q.キスで感染する、性行為感染症があるって本当ですか?
「キスしただけで、忘れた頃に肝炎になる性行為感染症があると聞きました。本当でしょうか? 思い当たることがあり、パートナーや子どもに感染していたら……と思うと、気が気でなりません」
■A.あります。
ご質問の通り、キスしただけで肝炎になる性行為感染症はあります。性器ヘルペス・口唇ヘルペス、B型肝炎、咽頭クラミジア、咽頭淋病など、さまざまです。
ここでは、病名もそのままの、いわゆる「キス病(Kissing disease)」というものをご紹介します。これは唾液中に病原体が存在するために、キスだけで感染してしまう可能性がある病気です。
より正確に言うと、キス病には「伝染性単核球症」という少し難しい病名がついています。この単核球症は、リンパ球のこと。原因ウイルスである「EBウイル ス」がある型のリンパ球に感染すると、そのリンパ球を攻撃する別の型のリンパ球が増加します。最初は発熱から始まり、リンパ節が腫れてきます。ウイルス感 染したリンパ球を攻撃する場所が肝臓に及ぶと、肝炎と似た症状が起こります。
症状としては、だるさ、食欲不振など。そして、少しのお酒で酔いが回ることもあります。場合によっては、尿の色や白目の色が黄色または茶色っぽく変わる黄疸(おうだん)を来すことがあります。
幸いなことに、キス病のほとんどは自然に治ってしまいます。一部の人が、無症状の状態で唾液中にウイルスを持っていて、次の感染源となります。次に感染した人は、また、忘れた頃に肝炎になる可能性があるので注意が必要です。
子どもが幼いうちに親から子どもへ感染した場合は、子どもの免疫系の応答が弱くて、微熱とリンパ節が腫れる程度で症状が軽くて、肝炎の症状までは起きません。知らないうちに多くの人が垂直感染(親から子どもへ感染)していることが多い病気です。
しかし、キス病に関しては、本人が感染したことがなく、相手の唾液中にウイルスがあった場合は予防方法がありません。
■忘れた頃に発病するのは潜伏期間が長いため
なぜキス病(Kissing disease)が、忘れた頃に肝炎と似た症状を引き起すのでしょう?
キス病に限らず、感染症は病原体が体に侵入してから発症するまでに一定の期間があります。この期間を潜伏期間と呼びます。潜伏期間は、病原体の量と毒性、 それに対する免疫反応の相互の関係で決まります。同じ病原体でも潜伏期間は一定とはなりません。ですから忘れた頃、数か月経って発病することが珍しくない のです。
■性行為感染症でもある急性B型肝炎にもご注意!
キス病のように、キスだけで感染するようなことはありませんが、同じように忘れたころに発症する性行為感染症として、B型肝炎についても触れておきたいと 思います。B型肝炎もまた、性行為によって感染することがあるため注意が必要です。B型肝炎のウイルスは血液中にありますが、感染しても数か月、もしくは それ以上の潜伏期間があるので、まさに忘れた頃に発病してしまいます。
急性B型肝炎が発症すると、キス病の症状と同様に、体がだるくなり、食欲も落ちてきます。そのうちに尿の色が濃くなる黄疸(おうだん)の状態となります。この黄疸の段階で受診される方が多いようです。
急性B型肝炎の診断には、血液検査でウイルスがいるかどうかの確認が必要となります。ウイルス(subtype)により、病気の経過についての医学的な見 通しが変わります。日本では、重い肝炎(劇症肝炎)や慢性肝炎に移行するウイルスによるB型肝炎が10%程度発症しています。劇症肝炎は時に死に至ること
があります。また、慢性化すると、将来的に肝硬変や肝がんの危険性があります。治癒する型(subtype)でも入院期間は数カ月以上必要です。東南アジ アでは、日本とウイルス(subtype)が異なり、慢性化する型が蔓延しています。
幸い、B型肝炎の場合は互いの唇どうしを触れあっただけのキスで感染することはありません。前述のキス病とは違い、コンドームなどの避妊具を使うことであ る程度予防できます。また、B型肝炎は病院内で業務感染の原因となりますので、医療関係者はワクチン接種を実施しています。
医療関係者以外でもワクチン接種は可能ですが、実費扱いです。通常は採血して既にウイルスに感染しているどうかを確認してからの接種となります。一回では十分な免疫がつかないことが多いので複数回の接種が必要です。
文・西園寺 克(All About 性感染症・STD)
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